押さえておくべき!遺産相続の流れ
役所での手続きや公共料金等の解約手続きが完了したあとに対応が必要になるのが、遺産相続手続です。
この記事では、遺産相続手続きの流れについて解説します。
遺産相続手続きの大まかな流れ
①遺言書の有無の確認
②相続人の確定
③相続財産の調査
④相続方法の決定(相続または放棄)
⑤遺産分割協議書の作成
⑥相続税の申告、納付
⑦相続遺産の分配完了(名義変更等)
手続きの流れに沿って、一つずつ確認していきましょう。
遺言書の有無の確認・相続人の調査・相続財産の把握
まずは、遺言の有無を確認します。遺言書の有無によりその後の手続きが異なりますので、必ず確認しておきましょう。
遺言書がある場合、法定相続分と異なる割合での遺産分割や法定相続人以外に財産を受け継げます。
そのため、遺産分割協議完了後に遺言書が見つかってしまうと、遺産分割協議のやり直しになる恐れがあり非常に手間がかかります。
遺言書の有無を確認する方法
遺言書の有無を確認する方法は3通りあります。
①公証役場で検索(確認)する
②自宅など保管されていそうな場所を探す
③法務局で検索(確認)する(自筆証書遺言の保管制度利用の場合)
公証役場での遺言の検索方法
もし、亡くなった方が平成元年以降に公証役場で公正証書遺言を作成していた場合、以下の手続きを踏めば、確実に遺言書にたどり着くことが出来ます。
調査開始から遺言書内容確認までの一連の流れは以下の通りです。
1)必要書類を集めて最寄りの公証役場へ行く
2)日本全国の公証役場を検索対象として、遺言書があるかどうかを調べてもらう
3)遺言書が見つかれば、作成された公証役場に必要書類を提出して謄本をもらう
遺言書の有無を調べる場所に特に決まりはありません。全国どこの公証役場でも全国を対象に検索することができます。
そのため、最寄りの公証役場に行くのが良いでしょう。
相続人が公証役場で遺言を検索する際に必要な書類
相続人が検索する場合には、以下の書類が必要になります。
・亡くなった人の死亡が記載された除籍謄本
・(代襲)相続人と故人の関係を示す戸籍謄本
・身分証明書(運転免許証,パスポートなど)+認印
遺言書がある場合
遺言書の検認(家庭裁判所での手続きが必要)を行います。
遺言書の検認とは、遺言書の発見者や保管者が家庭裁判所に遺言書を提出して相続人などの立会いのもとで、
遺言書を開封し、遺言書の内容を確認することです。
そうすることで相続人に対して、確かに遺言はあったんだと遺言書の存在を明確にして偽造されることを防ぐための手続きです。
遺言書の検認には期限がありませんが、検認をしないままだと相続登記や預貯金の払い戻しなどの手続きができません。
また、検認には1か月程度の時間がかかるため、早めに進めなければ後の手続きがどんどん先延ばしになり、
結果的に期限のある手続きを期限内に終えることができなくなってしまいますので、早めに対応しましょう。
※公正証書遺言については、公証人が作成しているので、改ざんや偽造される可能性はないということで検認手続きをする必要はありません。
遺言書がない場合
故人が遺言書を作成しておらず、遺産分割協議を行うときには、相続人の調査を最初に行いましょう。
遺産分割協議は法定相続人全員で参加する必要があり、新たに相続人が見つかってしまうと遺産分割協議をやり直さなければならないからです。
相続人の調査は、戸籍謄本などの書類を収集して行います。
具体的には、故人の死亡時からさかのぼって出生までの戸籍謄本を取得し、その後に相続関係を特定するための戸籍を収集します。
相続人の確定や戸籍謄本の収集完了後は、相続財産の調査を行います。
これらが完了した後に、相続方法を決定します。
相続方法の決定について
それぞれの財産についてプラスかマイナスか調査し、その財産が相続人にとって必要か不要かを判断していただきます。
その判断ができたら、次に相続するかどうかを決めます。
相続の方法は次の3つがあります。
①相続財産を単純承認する
すべての相続財産をそのまま相続する選択です。
単純承認を選択した場合は、このまま具体的な相続手続きに進みます。
②相続財産を放棄する
何も受け継がない選択で、これを相続放棄と呼びます。
マイナスの財産の方が多いときに、よく選択される方法です。
相続が開始したことを知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所に対して相続放棄の申立をします。
③相続財産を限定承認する
限定承認とは、プラスの財産の範囲内で債務を引き継ぐ方法で、
相続した借金等のマイナスの財産は相続した財産額までしか責任を負わなくて良くなるという手続きのことです。
一言で言うと「相続した財産の範囲でしか相続した借金を払う必要が無くなる相続方法」です。
相続が開始されたことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に対して限定承認の申立をします。
限定承認のデメリット
限定承認は一見メリットが多いように思えますが、以下のようなデメリットもあるため注意が必要です。
1)共同相続人全員が共同して申し立てなければならない
2)みなし譲渡所得税という税金が発生する場合がある
不動産や株式等の財産が有る場合に限定承認を行うと、みなし譲渡所得税という税金が発生する場合があります。
3)手続きが複雑で長引く可能性がある
限定承認は申立をしてから手続きが完了するまでに1~2年かかる事もあります。
遺産分割協議の開始
遺言書がなかった場合には、相続人全員で相続財産の分け方を話し合う「遺産分割協議」を行います。
遺産分割協議に法的な期限はありませんが、後述する相続税申告時に遺産分割協議書の提出が必要になるので、相続開始から10ヶ月以内に完了させるのが理想です。
なお、遺産分割協議は相続人全員で行う必要がありますが、全員が1ヶ所に集まり行う必要はありません。
電話やメール、その他の方法で意見交換をしながら協議を進めるのでも、問題ありません。
意見の相違や連絡が取れない相続人がいて遺産分割協議が難しい場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申立て、裁判所関与のもと話し合いを進めなければなりません。
遺産分割協議の注意点
■必ず相続人全員で行う
※必ずしも、一堂に会して話し合う必要はなく、全員が合意している内容の協議書を、郵送などの持ち回りで署名・押印する、という形をとっても良いです。
■「誰が」「どの財産を」「どれだけ取得するか」を明確に記載する。
■後日発見された遺産(借金が出てくる場合もある)を、どのように分配するか決めておく
(記載漏れがあっても、改めて協議書を作成しなくて済むため)。
■不動産の表示は、所在地や面積など、登記簿の通りに記載する。
■預貯金などは、銀行名、支店名、預金の種類、口座番号なども細かく記載する。
■住所・氏名は、住民票、印鑑証明書通りに記載する。
■実印で押印し、印鑑証明書を添付する。
■協議書が複数ページにわたる場合は契印をする。
■協議書の部数は、相続人の人数分、及び金融機関等への提出数分を作成する。
■相続人が未成年の場合は、法定代理人(通常は親権者)が遺産分割協議に参加するか、未成年者が成年に達するのを待ってから遺産分割協議をする。
■法定代理人も相続人である場合は、互いに利益が対立することになるため、家庭裁判所に特別代理人の選任申立を行う
(未成年者である相続人が複数いる場合は、それぞれ別の特別代理人が必要)。
■相続人に胎児がいる場合は、胎児が生まれてから作成する。
■相続人の一人が分割前に推定相続分の譲渡をした場合は、遺産分割協議にはその譲り受けた者を必ず参加させなければならない。
遺産分割協議の方法や遺産分割協議書の作り方を誤ると、やり直しになってしまうことがありますので、注意が必要です。
遺産分割協議が完了したら、決定した内容を遺産分割協議書にまとめます。
遺産分割協議書作成のポイント
■用紙
紙の大きさに制限はありません。
■押印
遺産分割協議書が数ページになるときは、法定相続人全員の実印で契印してください。
法務局では、少しの記入ミスでも訂正を求めますので、できれば捨印があった方がいいでしょう。
捨印を押すのを嫌がる相続人がいるときは、チェックして間違いがないことを確認しましょう。
署名の後ろに捺印する実印は、鮮明に押印する必要があります。
■財産の表示
不動産の場合、住所ではなく登記簿どおりの表記にしてください。銀行等は、支店名・口座番号まで書いてください。
■日付
遺産分割協議書の相続人が署名、押印した日付は、遺産分割の協議をした日か、あるいは最後に署名した人が署名した日付を記入するようにしましょう。
■相続人の住所・氏名
必ず、相続人本人に署名してもらいましょう。
住所、氏名は、印鑑証明書に記載されているとおりに記載します。
遺言書や遺産分割協議書の内容に従って各種名義変更の手続きを実施
預貯金・有価証券等の名義変更手続き
遺産分割協議書の作成が完了したら、各相続財産の相続手続きを行えます。
預貯金や有価証券等の名義変更手続きの流れは、以下の通りです。
1)金融機関や証券会社に連絡する
2)残高証明書の開示、照会請求を行う
3)所定の届出用紙(相続手続依頼書)を入手する
4)届出用紙と必要書類を提出する
5)相続人が口座開設を行う(有価証券等を相続する場合)
必要書類の種類や細かい手続きの流れに関しては、各金融機関で異なる場合もあるので、故人が口座開設していた金融機関に連絡をいれてみましょう。
相続した不動産の名義変更手続き
令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されました。
そのため、不動産を相続したら相続登記が必要となります。
不動産の名義変更の手続きの流れ
名義変更の手続きは大まかに、以下の手順で行います。
1)遺産分割協議の終了
2)登記に必要な書類の収集
亡くなられた方(被相続人)の書類
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等
※戸籍謄本等は相続人を確定するために必要です。
被相続人の記載のある戸籍謄本は1通ではありません。
原則、生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍謄本を集めなければなりません。
また、転籍や婚姻などをされている場合、転籍前や婚姻前の本籍地所在地の市区町村で、除籍謄本や改正原戸籍を取得しなければなりません。
・住民票の除票の写し(本籍・続柄の記載あるもの マイナンバー記載不可)または、戸籍の附票の除票
相続人の書類
・法定相続人全員の戸籍謄本
・遺産分割協議書
・法定相続人全員の印鑑証明書
・相続財産をもらい受ける相続人の住民票の写し
※本籍・続柄の記載あるもの マイナンバー記載不可
・相続する不動産の固定資産評価証明書(一番新しい年度のもの)
・相続する物件の登記事項証明書
3)登記申請書の作成
登記の申請書の作成は、状況毎に内容が複雑に異なります。
司法書士に依頼し、正確かつ速やかな手続をしましょう。
4)法務局への登記の申請
登記の申請用に集めた書類をまとめ、相続する不動産を管轄とする法務局に登記申請をします。
提出した書類に不備がなければ1週間程で登記が完了し、不動産の名義が変更されます。
相続税の申告
相続財産の分割方法が決定したら、相続財産の評価額を算出し相続税がかかるかどうか計算をしましょう。
相続税とは親族が亡くなった場合に、その人が残した財産を相続、遺贈などによって取得した時にかかる税金のことです。
相続税の申告・納税は相続の発生を知った日の翌日から10か月以内に、亡くなった方の亡くなった当時の住所地の税務署に対して行わなければなりません。
相続税の基礎控除
相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除枠が用意されています。
相続財産がそもそも基礎控除の範囲内に収まる場合には、相続税の申告も納税も必要ありません。
この基礎控除額を超える遺産を相続する場合、相続税の申告手続きを行わなければなりません。
申告先は税務署ですが、被相続人の住所を管轄する税務署となるので注意が必要です。
相続税申告に必要な添付書類一覧
相続税の申告に必要な書類を一覧でご紹介します。
どの書類が必要かは、相続する資産の種類によって異なりますので、ご参考にしてください。
全員が必要な書類一覧
下記の書類は、全国各地の市区町村役場(所)で取得することができます。
通常、被相続人が亡くなってから10日以上が経過した後に取得することが必要です。
・被相続人の生まれてから死亡までの戸籍謄本等
・全ての相続人の戸籍謄本
・全ての相続人の印鑑証明書
不動産を相続する場合に必要な書類一覧
不動産(土地や建物など)を相続する場合、次の書類が必要です。
【土地】
・登記簿謄本(全部事項証明書):法務局で入手できます
・固定資産税評価証明書:市区町村役場(所)の資産税課、東京都の場合は都税事務所で入手できます
・地積測量図または公図の写し:法務局で入手できます
・賃貸借契約書(借家がある場合のみ):自宅などで入手できます
【建物】
・登記簿謄本(全部事項証明書):法務局で入手できます
・固定資産税評価証明書:市区町村役場(所)の資産税課、東京都23区の場合は都税事務所で入手できます
・賃貸借契約書(賃貸の場合のみ):自宅などで入手できます
株式や投資信託を相続する場合に必要な書類一覧
株式や投資信託などに関わる財産を相続した場合には以下の書類が必要です。
【上場株式・投資信託】
・証券会社の残高証明書:契約している証券会社で入手できます
・配当金の支払通知書:自宅などで入手できます
【非上場株式】
・過去3期分の決算書(勘定内訳書などの添付書類を含む):該当企業で入手できます
・税務申告書(法人税・地方税・消費税):該当企業で入手できます
預貯金を相続する場合に必要な書類一覧
・金融機関の預金残高証明書:取引している金融機関で入手できます
・被相続人の過去5年分の通帳のコピー:自宅などで入手できます
・定期預金の既経過利息計算書:取引している金融機関などで入手できます
生命保険金等を受け取る場合に必要な書類一覧
・生命保険金支払通知書:契約している生命保険会社で入手できます
・生命保険証書:自宅などで入手できます
・解約返戻金のわかる書類:契約している生命保険会社で入手できます
まとめ
期限がある中で確実に漏れなく相続手続きを行うには、手続きに必要な書類や期限を網羅的に把握しておくことが不可欠です。
相続は人生で何度も経験することではありません。慣れている人などいません。
手続きはたくさんありますが、時には専門家を頼りながらひとつひとつ着実に済ませていきましょう。